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動物に愛を、リスペクトのまなざしを。町唯一の動物病院から
2024.01.29
大昔から人間社会で生活してきた動物たち。ペットであれ家畜であれ、言葉は通じなくても一つ屋根の下で暮らせば同じ家族。そんな動物たちも人と同じように病気やケガをする。診てもらえる獣医さんが近くにいれば、どれだけ助かることでしょう。小さなまちの、ある動物病院。そこの獣医さんはどんなことを日々考えているのでしょうか。
ムツゴロウさんに影響され獣医を目指す
開けた住宅街、旧都農高等学校跡地の近くに町唯一の動物病院「あおき動物病院」があります。院長の青木淳一さんは愛媛県の出身。宮崎大学を卒業し、宮崎県西都市の動物病院で勤務したあと2000年に独立開業のため家族とともに都農町へやって来ました。あおき動物病院では犬や猫などのペットだけでなく、牛といった人間の経済活動に関わる産業動物の診療も行なっています。
淳一さんが動物に携わる仕事をしたいと思ったきっかけには“ムツゴロウさん”こと畑正憲さんの存在がありました。幼少期、テレビ番組『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』に影響を受け動物が好きになると保護活動や環境問題にも関心を持つようになったという淳一さん。10代に入ると獣医を目指すようになり、大学卒業時には海外に活動の場を求めて青年海外協力隊を受験するも残念ながら落選。

しかし落選したことが現在のキャリアへと通じていきます。協力隊では家畜の診療が重要になるため、和牛の繁殖農家を回る実習に参加していました。そのうち人と牛との関わり合いやその雰囲気に魅了されるようになります。漠然と「牛の農家っていいな」と思っていたところ家畜診療も行なっている西都市の病院を紹介され、そのまま就職。以後、28歳で独立するまで獣医としての経験を蓄えていくのでした。
獣医は小児科⁉︎ 診察時に問われるコミュニケーション力
動物を診察するといっても人間のように言葉を介した問診をすることができません。では、獣医はどのように動物を診るのでしょう。

「もちろん触診などはしますが、症状を聞き取るには結局のところ人とのコミュニケーション力が重要ですね。人間の場合、まだ上手く話せない乳幼児を診るときはお母さんから話を聞きますよね。それと一緒で注意深く飼い主の話を聞いて、生育環境も考慮しながら症状の原因を探っていきます。ですので、講演や獣医を目指す学生の前では『獣医は小児科です』と話しています」
基本的にペットの診察は病院内で行なっていますが、家畜の診察の際は農家からの連絡があり次第、必要道具を持って現場へ駆けつけています。早急な対応が求められることもあり、とくに牛のお産に立ち会うときには持参する道具のほか、その場のありあわせのものでとっさに処置を施すこともあるようです。

「出産後に子宮脱という子宮がひっくり返って飛び出してしまうことがあります。腫れている部分を縮めるため砂糖をまぶしたり、奥まで子宮を戻すのに手では届かないから消毒した一升瓶を使ったり。その場の状況でなんとかしないといけないことはよくありますね」

動物を診察するときには傍らに人の存在がある。ペットや家畜では飼われる目的も異なり、それぞれの抱える事情も異なる。どのような処置を施すかは飼い主に委ねられる部分もあり、まさにそのときに動物と人との関係性が垣間見えるといいます。
リスペクトを持って動物と接する
「結局、僕は人が好きなんだと思うんです。和牛繁殖農家で実習したときに何を良いと思ったかというと、人と牛との温かい関係性が成り立っていたこと、その雰囲気に包まれていたことにすごく惹かれたのだと思います」

何気ない日常のなかにある動物と人とが織りなす光景。犬を可愛がったりしつけたり、子どもたちが猫を拾ってきたり容態を見守ったり。そんな生活のなかにあるワンシーンを目にするのが好きだといいます。

2010年に都農町をはじめ宮崎県で猛威を振るった口蹄疫。淳一さんは感染1例目を通報した獣医として、初動対応から事態の収束に至るまで関わってきました。農家と行政、あるいは牛と人、それらのあいだをつなぐ役目を担うなかで、牛は食用や診察の対象である前に、人間と同じように感情を持っている生き物だと感じるようになりました。
ただ治療を施すだけでなく、獣医として動物も含めた家族みんなが幸せになることを目指したい。
長年の経験から考える、動物と人とが良い関係性を結び共生していくためには何が必要なのでしょう。

「動物に対するリスペクトではないかと思います。それがあるからこそ責任を持って接することができる。口蹄疫のときも思いましたが、農家のみなさんは牛に対して家族のように愛情を注いでいるし、同時にこの子たちのおかげで自分たちは生活ができているのだという想いも持っています。単に産業として儲けるためではないんですよね。それはペットも同じで飼い主の都合だけで接していると歪みが出ます。ダサい言葉かもしれませんが、感謝や愛情が大切です」
淳一さんの息子と一緒に写る畑正憲さん。口蹄疫が沈静化したあと住民交流のため「尾鈴ふれあいの居場所」が設けられ、オープニングセレモニーでは畑さんが講演を行った
【あおき動物病院】
〒889-1201
宮崎県児湯郡都農町大字川北松原1219-10
TEL:0983-25-0941
診療時間:月~土9:00~18:30(日曜休)
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