#仕事#暮らしのこと
エンディングノートは、愛する家族に想いを伝えるラブレター
2024.02.09
最近、直筆で手紙を書きましたか。誰に宛てて書きましたか。
自分の手によって文章をしたためる機会の減った現代。伝えること、書き残すことはパソコンやスマートフォンが代替してくれる。でも、やっぱり手書きの文字を見ると情緒を感じてしまうのは気のせいでしょうか。
未来へ向けてより良く生きるために今の自分を整理する。
思い切り手書きでノートを汚してみませんか。それも「終活」として。
終活とは「生き支度」
「終活」という言葉が浸透して早10年以上が経ちます。2009年にある週刊誌が使いはじめたことがきっかけとされています。一般的には人生の終わりを迎えた人々が生前整理をすることと認知され、その二文字から一見暗いイメージを抱きがちですが実はそうでもないようです。

「終活は『死に支度』というよりも『生き支度』です。決して暗いものではなく、自分を見つめることで前向きに捉えることができるようになります。終わりの準備ではなく、これからをより良く生きるための準備、知らないより絶対に知っておいたほうが良い活動です」
そう話すのは終活カウンセラー協会認定終活講師の吉川尚子さん。ハキハキと喋る姿がとても印象的で、確かにこの方に終活のことを教わったらイメージが明るくなりそうです。しかし、先の言葉にはちゃんとした理由がありました。

「今は人生100年時代に入り、多くの方がこれまで以上に長生きすることになります。私は現在61歳で100歳まで39年もある。でも100歳まで生きることを前提に人生計画を立てる方がどれだけいるでしょうか。やりたいこともあるだろうし、子どもたちに残していくこともある。自分の人生を振り返り、自分の今を見つめることによって、これからの人生を歩んでいく。より自分らしく、今をより良く生きていく活動が終活なんですよ」
幼馴染の思い出を胸に、終活カウンセラーへ
尚子さんは終活カウンセラーになる以前、臨床検査技師の仕事をしていました。早期退職の末、現在の道を歩むことになりますが、そのきっかけには幼馴染との突然のお別れがありました。

「保育所から高校までずっと一緒で、お互いに家庭を持ってからも1年に1回は会う仲だったんです。55歳のとき突然『会いたい』と彼女が連絡をくれたんですね。高鍋町のマクドナルドで会ったときに余命4ヶ月と告げられました。『小さいころからいつも助けてくれてありがとう』と穏やかな優しい口調で。思わず『なんで私より先に死ぬとや!』と叫ぶほど私には衝撃だったのですが、本人は『突然亡くなる人に比べたら私にはまだ時間があるから幸せなんだ』といいながら限られた時間のなかで終活をしており、すでに逝く覚悟ができていました」
その光景は映画のワンシーンのようだったといいます。延命治療を望まず自分らしく死にたいと、その年の暮れに亡くなりました。生前に身の回りの整理をしており、尚子さんは彼女から形見にしてほしいとネックレスを受け取ります。

その出来事もあり、生前整理に関することがしたいと思っていたところ知人に紹介されたのが終活カウンセラー協会の2級検定試験でした。試験には見事合格。2級検定で「終活」の知識を広く浅く学び「もっと知りたい」と1級検定を受講します。
「試験の終わった夜に、当時20代だった息子が私のエンディングノートを眺めて『お母さん、これ便利だね。一人暮らしだと実家の状況もわからないし、自分も書いていたらお母さんたちも助かるよね』と感動していたんです。その姿を見て、若い人にもこんなに感動を与えることのできる仕事なんだと私が心打たれ、終活カウンセラー協会認定講師に挑戦して現在に至っています。専門家の先生方や大切な仲間に出会い、おおげさではなく私の人生が変わりました。終活のことを身近な都農町の方々から少しずつ伝えていけたらと思っています」
想いを伝えるラブレター。若い世代にこそ勧めたいエンディングノート
終活をするうで欠かせないのがエンディングノート(終活ノート)。エンディングノートには自身の健康状態、財産や保険、葬儀に至るまで、あらゆる情報を記載する項目があります。それだけを聞くと堅苦しいイメージを持ってしまいますが、実は身辺整理だけでなく、家族や大切な人への想いを綴り、心を遺すノート、未来に向けてやりたいことをまとめるノートでもあります。
「エンディングノートは愛する家族や友だちに想いを伝えるラブレターだと思っています。直接は口で伝えづらいことも書き遺すことで気持ちの整理になり、手紙のように相手のことを想って次々と言葉が溢れてくる。終末期を迎えた方々が後悔することで一番多かった言葉は愛する人に『ありがとう』と伝えてこなかったことだといわれています」

今、隣にいる大切な人が明日いるとは限らない。自分を見つめ直すことからその後の人生をより良く生きることができる。エンディングノートは無理をして書くものではなく何度でも書き直しができ、自分の好きなようにページを埋めることのできる自由さがあります。そして、いざというときに自分の願いを尊重してもらうためのツールでもある。尚子さん自身は思い出の写真を切り貼りしたオリジナリティ溢れるノートをつくっています。
幼馴染(左)と一緒に
そんな尚子さんですが幼馴染を亡くした経験、終活カウンセラー協会認定講師という立場から若い人たちにこそエンディングノートを勧めています。

「自分の死はまだ先だと考える方は多いでしょう。長寿を全うできれば本望かもしれません。でも突然亡くなったときにエンディングノートがあると残されたご家族は遺品・財産整理をする意味でも助かりますし、直筆のメッセージがあれば手紙のように大切に保存すると思うんです」
ノートは自分の書いた文字で想いを伝える最高のプレゼント。デジタル時代の今、文章を「打つ」ことはすれど「書く」ことはない。また、すべての情報をパソコンやスマートフォンで管理している人は多く、いざとなったときにパスワードがわからず開けないこともある。遺族にとってはパスワードがあるのとないのとでは大違い。そういう小さなところから若い人たちにもノートを書いてほしいし、一緒に終活を学んでいけたら素敵だと尚子さんは話します。

「コロナ禍で思うような活動ができずにいましたが、これから町民の方々にはもちろん県内の方にも少しずつ『生き支度』を広めていきたいと思っています」
※参考
「終活とは」 一般社団法人終活カウンセラー協会
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