#仕事#暮らしのこと
「私がいたこと、覚えていてほしいよね」。粋な商いが生むまちの風景
2023.12.08
「全部楽しいよ、おかげさまだね」

晴れやかな空に似つかわしい気持ちの良い言葉。その一言に至るまでの話をじっくり聞いていたからこそ、言葉の持つ意味が深く身に染みる。活力に溢れ、お店を営むだけではなく、あるときは舞踊の先生、あるときは地域活動の先頭に立つ。その力はどこから湧いてくるのか。日々の商いにそのヒントはあるようです。
創業約60年。都農の歩みを見てきたふとん店
最近、ふとん屋さんを見かけましたか? みなさんはどこでふとんを買いますか?
20年ほど前まではどこのまちにも1軒はあったふとん屋さん。アパートの1階や商店の一角で営まれ、まちの情緒を醸し出していました。

だんだんとその姿も見かけなくなった現代。ホームセンターへ行けば春夏秋冬、お手頃価格で寝具が販売されています。それとともにふとんのあり方も既製服と同じように「使い捨て」の要素が強くなってきました。しかし、ふとんをはじめとした寝具は洗浄や打ち直しをすることで長く使うことができます。古くなり「ふとん」としての機能を果たさなくなっても、生地や素材を活かして座布団としてリメイクすることも可能。

創業から60年ほど。まちのふとん屋さんとして長いあいだ町民の睡眠を支えてきた「矢野ふとん店」。時代の変化とともに商いのあり方も柔軟に変えてきました。

そんなお店を切り盛りする矢野純子さんは同店の2代目。純子さんによると現在はふとんのレンタル需要が高く、来客用として利用する人のほか、葬儀場への貸出も多いそうです。
「今は物売りが厳しい時代だけど扱っている品はいいからね。一度使ってもらえると良さはわかりますよ。もちろんリピーターさんもいますしね」

純子さんがお店を継いで以来、ふとん屋であることを中核に据えつつ、婦人服の販売を20年以上メインに続けてきました。さまざまな商いを組み合わせてお店を営んでいる純子さんですが、ここ数年はあるものを仕入れるように。お店もそれを求めて老若男女が集まる場所へと変化してきました。

そのあるものとは“駄菓子”です。
駄菓子のつくる風景
「5年前のことになるのかな、孫たちが喜ぶかなと思って買ったのがきっかけでしたね。喜ぶから少し余計に買って棚に並べているうちに子どもたちがやってくるようになって。大人たちも結構やってきますよ。おつまみにいいのかな。あとは懐かしいのかもね」

基本的に1人でお店に立つ純子さん。本業のふとん屋が忙しいながらも、駄菓子を買いにくる子どもたちを見ていると楽しさのほうが勝るといいます。
駄菓子は利幅の少ない商売。最近、駄菓子屋を目にしなくなった理由の一つもそこにあります。しかし、子どもたちの喜ぶ姿や、彼らが集まって織りなす風景からはお金では買えない何かが残っていくと感じている純子さん。それもあり、できるだけ長く続けていきたいと話します。

「朝からずっといる子や1日のうちに何度もやってくる子もいます。反応が可愛いですよね、挨拶やお礼を褒めるとものすごく喜ぶの。みんな1年でどんどん大きくなって、久しぶりにやってきた子が『僕のこと覚えていますか!?』なんていってくることも。私が元気なうちはずっとやっていきたいね」

せっかく集まってくれるのだからと、ゆっくりしたスペースを設けたいと考えているそうで駄菓子カフェの構想も持っているのだとか。
100ある力のうち、1か2でも相手のためにできることを
純子さんはふとん店を営むほかにも日本舞踊「藤間流 藤間清馨(きよか)」として教室を開講したり、猛威を振るった口蹄疫の復興活動として一時は「都農もりあげ隊」の代表もしていたりと、本人も「忙しい」と口にするほど多忙を極めています。

しかし、それでもお呼びがかかれば自ら出向いたり、活動の中心に立ったりと活力に溢れています。その力はどこから湧いてくるのでしょうか。

「父を早くに亡くしたこともあって人生は短いなって感じるようになってね、生きているうちに自分がしたいことをするというのが根本にはあります。忙しくて余裕がなくなると心を失いそうになるけれど、私がやってきたことで誰かに喜んでもらえると、マイナスなこともすべて帳消しになるんです。小さなことでいいんですよ。自分のなかの100ある力のうち、1か2でも相手のためにできることがあれば手伝いたいと思っています」
一息入れるときは裏庭へ。植物たちの世話をしながら日光浴をするとパワーがみなぎる
自分ができることには限界がある。だから、高く見積もらず、ちょっとしたことからはじめてみる。すると結果的に人がついてくる。人に何かを伝えていくのであれば自分が動いている姿を見てもらうしかないと純子さんはいいます。

「子どもたちや私よりも若い人たちに何かを伝えていくのであれば、言葉よりも私の生きている姿を見てほしいなって思います。生き方を強制したいのではなく『こんなことしていた人がいたよね』と私がいたことを覚えておいてほしい」
まちの風景は日々の商いとそこに集まる人々によってつくり出される。粋な商いをする純子さんのもとには今日もお得意様や子どもたちが訪れる。

今日は純子さんとどんな会話が繰り広げられたのでしょうか。
【矢野ふとん店】
〒889-1201
宮崎県児湯郡都農町川北3552-4
TEL:0983-25-0385 
営業時間:9:00~17:00(日曜定休)
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