#食べる
生きがいの見つかるパン屋 セサミ・ツノ
2021.07.31
日々の食事に欠かせないパン。朝・昼・晩、どの食事どきにも私たちの食卓を彩ります。食べ合わせは何にしようか、何を飲み物に合わせようかと想像が膨らみます。そして、やっぱりまちにはパン屋が欲しい。扉の向こうには数々のパンが並び、今日はこのパンを買ったから今度来るときにはあのパンにしようと、何度も通いたくなる楽しみがつまっている。そんな都農町にあるパン屋のお話。
生きがいを持てる場を提供したい
JR都農駅前の住宅地。道路沿いに映えるオレンジ色の壁面。ここはパン屋「セサミ・ツノ」。店内に入ると食パンや菓子パンなどさまざまなパンが目に入り、ガラス窓の向こうの工房では、今まさにパンが手づくりされている。

パン屋といっても、セサミ・ツノは一般的なパン屋とは少し趣が異なります。
セサミ・ツノは社会福祉法人明和会(あきわかい)の有する障がい福祉サービス事業所。障がいや特性を持つ方々を対象に、就労機会の提供や日常生活における訓練を行っています。主に高鍋町・都農町・川南町・日向市といった周辺地域の方々が利用し、パンの製造・販売のほか、清掃メンテナンスを行っています。
事業所のはじまりは2006年の12月。都農町松原地区にある旧南保育園跡地に開所しました。当初からパンを製造し、施設内の売店、道の駅やスーパーで販売。手づくりのパンは都農町民のあいだで親しまれ常連客もつくように。施設の老朽化もあり2021年3月末に現在の駅前地区へ移転し、5月25日にパン屋をリニューアルオープン。当日はオープン前から行列ができるほど。

「障がいのある方たちが楽しく生活できる場を提供したいと思ってこの施設をつくったんです」と話すのは施設長の児玉典子さん。働くことで工賃が得られ、障がいのある方たちが生きがいを持って生活できるようにしたい。そして、利用者も同じ働く仲間である。そんな想いもあり、セサミ・ツノの利用者は「スタッフ」と呼ばれ、活動を補助する施設支援員と対等な関係が築かれています。
さまざまな人の手を介すパン
就労機会を提供する福祉サービスにはさまざまな仕事がありますが、なぜパン屋だったのでしょうか。
「パンは毎日口にするもの。毎日需要がありますよね。いろんな方が毎日買いに来られますし、製造や販売の工程にはスタッフの個性を生かせる作業がたくさんあります」。

材料の計量やパンの成形、袋づめやシール貼りに加え、検品作業や卸先へのパン数の確認まで。製造される川上から川下までさまざまな仕事が発生し、スタッフの個性や習熟度によって仕事が振り分けられます。一見、シール貼りや袋づめは簡単な仕事でしょ?と思われるかもしれません。実際にやってみるとわかるのですが、パンの形や見栄えを損なわないようにするために繊細な作業が求められます。そこにはスタッフの仕事の繊細さと緻密さがありました。
セサミ・ツノは福祉サービス事業所ということもあり、スタッフへの就労機会の提供が目的であるため、パン屋としての営業は平日の10:30〜16:00。営業時間・日数はほかのパン屋に比べると少ないかもしれませんが、それでもセサミのパンを求めて買いに来る客はあとを絶たず、人気のパンは早い時間から売れていきます。「パン屋としての営業は地域の方の理解があってこそ」。児玉さんの言葉に象徴されるように、セサミ・ツノはこの15年のあいだに地域にはなくてはならないパン屋として根づいてきました。「卸先でも、セサミのパンはすぐ売れてしまうからもっと置いてほしいという声をいただきます。私たちのパンは決して安くはありませんが、それでも支持してくださるお客様がいるのはありがたいことですよ」。
試行錯誤の末に生まれるおいしいパン
現在のようにおいしいパンが販売できるようになるまでは試行錯誤の日々でした。当初はパン窯で恐る恐る焼いてみることからはじまり、食べられるようになったところで近所の方々へパンを配り、味見をしていただくことで改良を加えたりと地道な努力の連続。

現在の駅前地区へ施設を移したときも、すぐには売店で販売することができませんでした。場所が変われば湿度といったその土地の環境が影響し、機械を導入すれば慣れるのに時間を要します。移転後すぐに営業をはじめるのではなく、パン生地を発酵・熟成させるようにじっくりと必要な時間を置いてからの再オープンとなりました。

セサミ・ツノの数多のパンの中でも人気のパンといえば、食パンをはじめ、おいも金時やぶどうパンにあんブレットなど。それら以前から売れ筋であったものに加え、近ごろはマリトッツォが評判に。現在は30種ほどのパンを日によって入れ替わり出しています。
セサミ・ツノのパンは製造の過程で防腐剤など添加物をいっさい入れません。また、支持される理由の一つに、おいしさだけでなくパン独特の食感もあります。とくに食パンは材料の良さがわかりやすく、ふわふわ・もちもちとしていてお客さんからの評判は上々。「おたくの食パンの柔らかさに出会ってしまってから、ほかの食パンが食べられなくなる」という声をいただくほど。食べてみると、その食感だけでなく芳醇な香りも心地良く、食欲が刺激されます。もちろん、そのままでも十分においしいのですが、トースターで焼いてみるとまた違った風味を楽しむことができるため、どういうふうに食べ方のアレンジをしようかと想像がかき立てられます。また、玄米食パンに至っては玄米のぷちぷちっとした食感も特徴。児玉さんは蜂蜜をつけて食べるのがお好きなのだとか。
「売店に来たら窓越しにスタッフさんの仕事っぷりを見ていってくださいね」。児玉さんはそう話すと、支援員やスタッフの待つ給食の席へ足を速めるのでした。
【セサミ・ツノ】
〒889-1201 宮崎県児湯郡都農町大字川北1241-5
営業時間:10:30〜16:00
定休日:土・日・祝
TEL:0983-25-5521(FAX:0983-25-5520)
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