#暮らしのこと
地域一体となってつくり上げたお寺「龍雲寺」
2021.07.29
都農のまちから漁港へと下る坂の途中にある「龍雲寺」。子どもたちの元気な声や人々の楽しそうな声、時には歌声まで聞こえてくる…。ここは本当にお寺? 後継のいなかった古寺を、地域の人々とともに再建してきた住職に話を聞きました。
地域に貢献するお寺のあり方
「お寺は住職だけで成り立つものではなく、地域の住人一人ひとりとつくっていくもの」
平成18年11月に、龍雲寺の住職として都農町にやって来た吉田憲由さん。
もともと宮崎県延岡市のお寺の次男として生まれた憲由さんは、実家のお寺を出て、大分県のお寺の住職になる準備をしていたそう。
「ちょうどその時、先代の龍雲寺の住職が突然うちに訪ねて来て『龍雲寺の住職になってくれ』といわれたんです。その住職とはほとんど面識がなかったのですが、よくよく話を聞くとうちの祖父がその住職の師匠だったんです」。

師匠に言われ、50年間龍雲寺を守り続け、80歳を過ぎ、後継もおらず病気も患っていた先代住職。そんな住職から「龍雲寺を孫のあなたにお返しします」といわれ、大好きだった祖父からの言葉のように感じ、大分のお寺を断り龍雲寺の住職になることを決めました。

しかし、都農はまったくはじめての土地で、知り合いもおらずどこが檀家かもわからない。一軒一軒挨拶に回るも、なかなかお寺に人が来ない状態だったといいます。当時、小学1年生と2年生の息子もおり、家族を抱えながらここで生活していくのは無理だと諦めかけていました。
「あまりにもつらくて、つい師匠でもある父に弱音を吐いたんです。すると『お寺はお前のものじゃなくて地域のもの。だから地域に貢献するのがお寺なんだ』といわれました」。
それまでは、住職である自分が地域の人々を導いていく存在でなくてはならないと思っていたという憲由さん。師匠の言葉で考えを改め「住職は地域を代表してお寺を守っているだけ。この寺を訪れる一人ひとりが龍雲寺なんだ」と思うようになったのだそう。地域の人々に、お寺にどんなことを求めるか、何をすれば喜んでくれるか話を聞き、みんなが楽しめる参加型のイベントを企画していったところ、徐々に参拝者が訪れるようになっていきました。
お寺の敷地には決意の書が掲げられている
都農の土地に眠る宝物
憲由さんが龍雲寺に来てから取り入れているという修行が、冬場の水行。
「都農の浜には湧水が出ている場所がいくつかあって、そこから汲んだ水で水行をするととても力が湧くんです。ほかの場所での水行とは効果が違うのでとても良い水なんだろうなって。それをいろんな人に話していたら自分もやってみたいという人が増えてきたので、1年のスタートとなる立春近くの日曜日に、水行で身を清めて1年間頑張ろうというイベントとして毎年開催するようになりました」。
人間の煩悩の数「108」人の募集人数はすぐ満員になるほどの人気ぶり
「地から湧く」と「力湧く」を掛けて「ちからわく水行」として人気を博し、徐々に噂が広まり、都農町民だけでなく県内各地から参加するような大人気イベントに。
「龍雲寺に行くことが決まったとき、高僧(位の高いお坊さん)から「都農には宝物が眠っているからそれを意識して活動しなさい」と言われたんです。都農に来てみて、ああ、宝物とは都農の大地や土、水のことだったんだって。そしてそこで育てられたおいしい食べ物、それを食べて育った都農町民一人ひとりが宝物なんだと強く思うようになりました。まあ、最初は本当に財宝が眠っているのか! と思っていたのですが(笑)」。
1日100円、檀家さんの協力によって平成26年に本堂が完成
みんなが元気になれる場所づくりを目指して
水行イベントだけでなく、「お寺」というイメージの枠に囚われないイベントを開催している龍雲寺。
子どもたち向けに、お寺での修行体験や夏休みの宿題をみんなで取り組む寺子屋イベント、お寺の行事に合わせた朝市を開催するなど。どれも多くの人が参加を心待ちにするイベントとして定着しています。

お寺の大きな役割は、人々の悩みや不安を聞き、それを取り除いて楽しみを与える「抜苦与楽」(ばっくよらく)だと話す憲由さん。その方法はお寺ごとでさまざま。みんなが元気になれることならいろんなやり方があっていいといいます。
また、憲由さんは音楽が趣味で、町内のイベントにはバンドメンバーとして出演することも。
「講話の依頼があると『ギターを持って来てくれ』といわれます。話よりも歌がメインだったり(笑)」
一時はアーティストを目指していたという憲由さん
はじめは延岡の親しい友だちや祖父母と離れるのがさびしく、都農に行くことを嫌がっていたという2人の息子さんたち。都農でたくさんの人たちと交流し、お寺が変わっていく様子をずっと見てきたからか、今ではすっかり地元愛溢れる都農っ子に。自分たちがもっと都農町を盛り上げていきたいと、2人とも僧侶の道を志しています。長男の憲史さんは現在、県外で修行中。来年都農に帰ってくる予定です。
「今の時代、お寺の息子だから必ず住職になるとは限りません。それでも龍雲寺を継ぎたいといってくれたのは本当に嬉しいかったですね。彼らは私たちではわからないデジタルを活用した取り組みにも詳しいし、彼らが築いてきた地元の仲間もたくさんいる。昔ながらの風習も大事にしながら、新しい視点でより都農に根づいたお寺にしていけるのではないかと期待しています」。


私たちが抱くお寺のイメージを覆し、枠に囚われない独自の発想で、人々の心の拠り所になってきた龍雲寺。
「都農町は社会や人生に疲れた人が来て、心安らぎまた元気になって戻っていく…。そんなパワーに溢れた町。これからもみんなが都農に来たくなるような縁を結ぶイベントを地域の方と一緒につくっていきたいです」。
【龍雲寺】
889-1201 宮崎県児湯郡都農町川北3729
TEL:0983-25-3835
参拝時間:6:00 〜 17:00

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