#暮らしのこと#食べる
ほんとに必要なものはバックパック1つで済む
2020.12.24
電気も食材もできるだけ自分たちでまかない、時には建物だって建てる。そんな自給自足の生活に憧れを抱く人も多いのではないでしょうか。現代は、お金を出して物やサービスを買うことによって生活している人が大多数。しかし、それもほんの数十年のあいだにできた日常。案外、それはまだ新しい「当たり前」なのかもしれません。程よく「田舎」な都農町には、そんな自給自足の暮らしを実践しているご夫婦がいます。
山の上の小さな食堂
宮崎県都農町を縦に突っ切る国道10号線。道路に沿って車を走らせると突然「せかいのごはんや」と書かれたワイン樽が目に入ります。その方向へ進んでいくと、だんだんと上り坂になり道も狭くなってくる。この道をこのまま進んで大丈夫だろうか……と不安になりますが、迷わず進むと眼前に広がるのは異国の村のような光景。小屋がいくつか距離を置いて建ち並び、烏骨鶏(うこっけい)がストレスなく歩いている。不思議の国に迷い込んだかのようで、不安よりも心の弾みを感じます。
ここは食堂「せかいのごはんや」のある場所。せかいのごはんやは2組入れば満席になる小さな食堂です。旅の体験から感化された料理を、こだわりの食材と調味料で丁寧につくりあげていく。体に優しい味が支持されているお店です。
お店を営んでいるのは長江一敏さん・友佳さんご夫婦。この場所は自宅であり、お店でありと、自分たちのライフスタイルを実践する場であり、訪れた人たちと共有する場でもあります。


「ここはもともとジャングルみたいな土地で、まずは切り開くところからはじまったんですよ。道がなかったから道をつくって、部屋をつくり直して、水道を通して」と誇張もなく自然な語り口で話す一敏さん。自給自足というと大変そうに見えますが、一敏さんの言葉からはそんなことは感じられず、その生活が自然体で地に足ついているようにも感じます。
旅が教えてくれること
県外から移住してきた長江さんご夫婦。一敏さんは愛知県、友佳さんは北海道の札幌から。2人とも都農町で出会い、そのまま都農町が気に入り暮らすようになりました。海も山も川も近い、そんな手つかずの自然が残る都農町に魅せられ、ここであれば自分たちらしい生き方や働き方ができると感じたといいます。


自給自足のライフスタイルを送るようになった理由とはなんなんでしょう。
一敏さん曰く「バックパッカーをしていたのが大きいですよね。バックパックって荷物が1つで済む話じゃないですか。生活に必要なものがリュック1個で済む。それにアラスカを自転車で旅したときなんて、1週間とか水や食料を買えるお店がどこにもないんですよ。そうなるとお金を持っててもしょうがない。食料と水が一番大事で、それさえあればどこでも生きていけるって感じましたね」。
「私の場合、10年以上前にはじめての海外旅をしたんですけれど、行き先が発展途上国だったんです。その当時は東京に住んでいたんですが『あれ、こっちの国の人たちの方が楽しそうに生きている』って感じたんですよ。日本の東京のような都市部って確かに豊かなんだろうけれど、電車の中では疲れ切った顔の人が大勢いる。だけど、こっちの国の人たちはもっと生き生きとしてていいなって」と話す友佳さん。
旅を通じて価値観の多様さと、自身の変化を感じてきた2人。その体験から今の生活を選び、日々を過ごしています。都農町に移り住んで10年以上。今では2人のお子さんにも恵まれました。
地元に支えられる自給自足の暮らし
楽しみにしていた料理を準備していただくあいだ、一敏さんに敷地内を案内していただきました。
土壁の小屋、ワイン樽でつくったお風呂、廃油を活用したバイオ燃料など、自らの手でつくり・育てる暮らしぶりを随所に見ることができます。
いつでもゲストを迎えられるようにと、共有スペースや寝泊まりできるお部屋まで。「材料と想像力さえあればなんでもできちゃいますね。あ、ほら、こっちではソーラー発電もやっているんですよ」と案内にも熱が入っていました。ちなみにゲストルームは3人までなら泊まることができます。


そうするうちに出来上がった友佳さんの料理たち。前菜とともにテーブルに並んだのは「ひよこ豆のカレー」とメキシコのカレー「ポヨ・エン・モレ」。南米を旅したときに習得した料理で、欧風カレーや流行りのスパイスカレーとはまた違う味。その味わいに「カレー」の奥深さと世界の広さを感じます。
昔から料理好きなのかと思いきや「都農町に来てから料理が好きになりました」と意外な回答。「地元の方から季節のものをたくさんもらうんですよ。大根やゴーヤをドーン! とかもらって。料理を知っていないと食べきれないじゃないですか。それでおいしく食べる方法を調べて試していくうちに好きになりましたね」。
都農町の人々や自然への尊敬、感謝は尽きないと話す長江さんご夫婦。地元に支えられた自分たちのライフスタイルの一部を、ほかの人々とも共有し、地元に恩返しをする。そんな交流や循環が見える長江さんご夫婦の暮らしでした。
[DATA]
【せかいのごはんや】
〒889-1201
宮崎県児湯郡都農町大字川北18854-35
営業時間:11:00〜16:00(前日までの予約制)
TEL:090-9181-6419

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