#仕事#食べる
パンが運ぶ暮らしの風景。日常に溶け込むベーカリー
2023.10.27
1996年の創業以来、世界でも高い評価を受けるワインを生み出し続ける都農ワイナリー。これまで施設内にはショップやファームカフェを設けるなど、訪れる人々を楽しませてきました。2022年には改装を行いフロア部分を大きくリニューアル。同年9月にワインショップと新たにベーカリーカフェ「TSUNOWINE & BAKERY」をオープン。宮崎県産小麦や地元食材を使ったパンは好評を得ています。
土地の個性を表現したパンを、はじめての土地でつくる
画像提供:(株)都農ワイン
ワインもパンも、酵母菌による発酵から生まれるもの。両者とも地域食材を主に原料として用い、その土地の個性が表現されるものです。TSUNOWINE & BAKERYでは土地に流れる文脈を大切に、ワインとのマリアージュを意識したパンづくりが行われています。

店内に入るなり焼けたパンの香ばしさが食欲をそそります。陳列されたパンに加えて、ドーナツや焼き菓子の数々。広いカフェスペースでランチをとったり、お茶をしたりとお腹を満たしながら思い思いに過ごすことができる。テラス席で雄大な海や平野を眺めながらパンをいただくのもこれまた気持ちの良いことでしょう。
TSUNOWINE & BAKERYは一時休業を挟み、2023年4月27日にリニューアルオープンしました。以来、ベーカリー責任者としてパンの製造から販売までを担っているのが迫田圭史さん。圭史さんは熊本県天草の出身。大手パンメーカーのベーカリーや個人店で経験を積み、業界暦は約15年にも及びます。独立を考えていたころ、宮崎でパン屋を営む知人を介してTSUNOWINE & BAKERYがスタッフを募集していることを知ります。

「人里離れたワイナリーのパン屋さんにはどんな人たちが来るのだろう、どんなものが眠っているのだろう。立ち上げ期なこともあり、自分でいろいろ考えてできそうな自由さを感じました。チャレンジ精神に火がつきましたね」

地域おこし協力として都農町へ移り住み、朝5時から仕込みや焼成、お昼には次の日の準備、店舗営業のない日は試作を行うなどパンづくりに勤しむ日々を送っています。
圭史さんおすすめのパンは水ではなくブドウジュース100%で仕込んだ「キャンベル」|画像提供:(株)都農ワイン
自分は「パン職人」ではない。食卓をイメージしたパンづくりとは
「実は『パン職人』と呼ばれることが苦手で…」

確かにパンづくりにはこだわってはいるが、そこまで背負った生き方はしていないという圭史さん。「つくる」ことよりも「届ける」ことを常に考えているといいます。

「逆算でパンをつくることが多いですね。食卓にどう並ぶのか、お店に来るお客様はどんな方々かイメージして、そのなかで一番おいしいパンをつくっていく。お客様の反応が良いと手応えを感じて嬉しいですね」

もちろん自分発信でつくりたいパンもある。それは圭史さん曰く「あえて手に取りにくいもの」だといいます。

「自分のあまのじゃくな性格もありますが、宝探しというか、食べてみて驚いてほしいものも商品のラインナップには入れています。たとえば試食で出してみて『どれどれ…え! おいしい!』って相手の期待を裏切りたいんです。今一番売れているものだけを並べても、おもしろくないかなって思いますし」
そんな圭史さんは、普段パンを食べるときも仕事モード。「おいしかった」と満足するためというよりは、世間の相場観、支持される理由、価格の理由など研究のために食べる。手づくりのパンから大量に流通している袋パンまで、好き嫌い関係なしに食べるといいます。

「パンを見つけたときに『何これ? おもしろそう』という好奇心で購入していますね。実際に食べてみて好きだな、苦手だなと思ったり。でも、僕が苦手なものでも、それを好きな人は確実にいる。好き嫌いは基本的にひっくり返りやすく、興味を持たれないものが一番動かないんです。

なぜこのフレーバーは好かれるのか、なぜこれは誰も手に取らないのか、そういう理由を探って仕事に生かしたいと思っています。それもあって、実は僕、季節もの・期間限定ものに弱いんですよ(笑)」
ベーカリーを地元の人にとってデイリーなものに
画像提供:(株)都農ワイン
「一個のパンとして完成されていない、隙のある商品づくりがしたいと思っています」

圭史さんが加わり、リニューアルを経て半年ほど。お客様にとって良きベーカリーとは。冒頭の言葉は考えた先に行き着いた答えの一つ。

「お客様が食べ方に工夫ができるよう一歩引いたパンをつくると『このあいだ買った食パン、ジャムをつけてみたらおいしかったわ』と、ちょっとした会話が生まれるんですよ。売り手の僕らとお客様の交流のきっかけになるんです。『食』は一番身近なものなので話題を提供しやすい」
ベーカリーを交流の場として使ってほしい。今まで勤務した店舗は決まった作業を行うのが通例でしたが、都農町へやってきてベーカリーの運営に深く関わるうちに、パンを介した見たい光景が浮かぶようになったといいます。

「地元の人にとってデイリーな存在になることを目指しています。毎日の食卓に並んでいるような、毎日食べても飽きないようなパンとパン屋であってほしい。ふらっとやって来て、ここで買ったパンを野菜が詰まったバスケットにぽんぽんって入れて帰る。そんな光景が当たり前になると素敵ですよね。そこに都農ワインもあるとなお嬉しい。

だから、地元の人には気取らずに来てほしいんです。農作業の格好、ちょっと汚れた服装でも全然構いません。とくに平日はそんな光景が見られるといいなと思っています」

連休には、地元の人たちが県外に住む家族や知人を連れてやってくるようになりました。TSUNOWINE & BAKERYが紹介したくなる場所になっていることを振り返り、「どれだけ地元に愛されるかは重要」と語る圭史さんでした。
【TSUNOWINE &BAKERY】

〒889-1201
宮崎県児湯郡都農町大字川北14609-20
営業時間:10:00〜16:00(木、金、土、日、祝日)

※曜日の関係で営業日が変更する場合がございます
Instagram:@tsunowine_bakery
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