#暮らしのこと
木の温もりを食卓へ 工房柊花
2022.02.28
暮らしの豊かさは食事や睡眠、適度な運動など、普段の生活から得られるもの。たとえば日々の食事も袋や容器に入ったままよりも、素敵な器に盛り付けられているほうが食欲が湧いてきます。とくに手づくりで丁寧につくられた器やお皿はそこに存在するだけで心を豊かにしてくれる不思議な魅力があります。ここ都農町にもそんな不思議で、温かみのあるお皿をつくる職人がいます。
使われていない木材を蘇らせる、工房柊花のお皿
自然に囲まれた住宅街の一角にある作業場に足を運ぶと、目に飛び込んでくるのは、背丈を優に超える大きな木材たち。その光景に圧倒されていると出迎えてくれたのが「工房柊花(しゅうか)」の平田正幸さん。この工房のオーナーであり職人でもあります。柊花がつくっているのは、お皿といっても陶磁器ではなく「木製のお皿」。丈夫で割れにくく、熱を伝える力が低いとされ、料理が冷めにくいことが魅力の木製皿。そのなかでも柊花のつくるお皿は艶やかで手触りが良く、木目の美しさに目を奪われます。そんなお皿のクオリティもさることながら驚かされるのは木材の産地。なんとすべて地元の木材を活用してつくられています。
「ちょうど隣に製材所があって、木を分けてくれるんですよ。もう家に収まらないくらい(笑)製材所にもたくさんの種類の木材が置いてありますよ」。

柊花に集まるのは、端材や空き家の庭先でいらなくなった木々たち。捨てられるはずだった木々が平田さんの手にかかれば別の形で生まれ変わります。そんな木々たちを活かした逸品に魅了されるファンも多く、宮崎県内の飲食店でも柊花のお皿が使われています。

「最近は全国からオーダーメイドのお皿をつくりたいと連絡が来るんです。カフェや雑貨屋さんからのオファーだったり、染木をされている方などいろいろ。ありがたいですよね」。
木材とともに、第2の人生
柊花の作品についてお話しを聞いているとパソコンを開いて見せてくれたのは海外の木工作品。そのほかにも「ピンタレスト」でお気に入りにしている全国の木工作品を見せてくれました。

「SNSで調べてみると全国の職人たちのお皿がつくり方と一緒に載ってるんです。それを自分でもつくれるか試して少しずつアレンジしていく。だから僕の師匠はパソコンなんです(笑)」。

独学で木工細工の世界に飛び込んだのは9年前。
実は平田さんは生まれも育ちも鹿児島県のご出身。大学を卒業後、就職で関東へ。定年退職後に奥様のご実家のあった都農町に移住してきました。セカンドライフとしてスタートした都農での暮らし。木工細工との出会いはそのなかにあったといいます。
「きっかけは今住んでいる自宅のリフォームですね。姉夫婦から、『暖炉をつくってみないか?』ということでやってみたら楽しくて。そのあと、隣の製材所から薪を分けてもらう内に木で何かできないかなと思ったんです」。

それからしばらくはDIY感覚で木材を使った身の回りのリフォームをしていたという平田さん。一通りのリフォームを終え、ほかの木工細工を調べるうちに木の器にたどり着き、気づけば工房を構えるまでになりました。

「皿をつくりはじめて3か月たったころ、道の駅の開店イベントでお皿を出店してみたんです。全然売れないだろうなと思っていたら意外と売れて(笑)、これがきっかけでいろんな人たちとつながりもできて、のめり込んでいきましたね」。
失敗を重ねても、届けたい「木の温もり」
工房を構えてから8年が経った柊花。だんだんと製作ペースが上がり、今では2日で20枚から30枚ほどのお皿を仕上げるといいます。一部の作業は機械の力を借りますが、仕上げは手作業にこだわっています。「仕上げにペーパーで磨きをかけていくんですが、番手(ばんて)を飛ばすと筋目が残ってしまうんですね。だから細かく番手を刻んでじっくりと磨いていくことで綺麗な仕上がりになるんです」。また最近は「いかにして生産効率を上げられるか」を考えるようになったといいます。

「うちの工房のモットーは『食卓に木の温もりをお届けします』。多くの人に木の皿の良さや木そのものの良さを知ってもらいたい。そのためにも少しでも生産性を上げて1枚1枚をできるだけリーズナブルな価格で届けたいんですよね」。

趣味ではじめたことがいつしか本気の職業になった平田さん。
好きなことを仕事にするといえど苦悩や挫折は誰しもが経験するもの。楽しそうに活き活きと作品の魅力を語ってくれる平田さんにもそういったつらい時期や経験はあったのか。最後にうかがってみるととてもアグレッシブな答えが返ってきました。

「まだまだ下手くそやから失敗だってたくさんありますよ。お皿を削りすぎて底に穴があいちゃったりとか日常茶飯事(笑)、それにケガだってします。でも失敗したって死にはしないから、やれることはとことんチャレンジしてみよう! っていう気持ちですよ」。

一度は役目を果たした木々が、命を吹き返したかのように生まれ変わり、1枚のお皿になる。そこには年輪のように重ねてきた平田さんの経験と情熱が込められていました。
【工房柊花(しゅうか)】
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