#暮らしのこと
木製コンポストが育む、人と自然の新たな関係性
2021.12.28
深刻化するゴミ問題。日本のまちは「ゴミが落ちていない」と絶賛されることもありますが、実は燃やしているごみの量も焼却施設数も、世界一ということをご存知ですか?
そして燃やしているごみの約40%を占めるのが生ごみといわれています。
家庭で毎日のように出る生ごみを入れても数日後には跡形もなく消えていく。「汚い」というイメージさえある生ごみを宝物に変える、魔法のような箱をつくっている工房が都農町にありました。
家族の愛でつながったコンポスト〜完成までの道のり〜
魔法の箱の正体は「木製コンポスト」。コンポスト(compost)とは「堆肥」という意味で、コンポストに入れた基材(のこくずや腐葉土など)に住んでいる微生物が生ごみを発酵・分解し、堆肥へと変身させます。いろいろな種類のコンポストがありますが、木製コンポストは場所を選ばず使用でき、処理に困る廃油なども入れることができます。
この「木製コンポスト:樹erie box(ジュエリーボックス)」を業界ではじめて開発されたのが都農町在住の谷村江利子さん。
名前の通りジュエリーボックスのようなおしゃれな形をしており、木の温かみが特徴です。
「この箱の中に40日分、約14kgの生ごみが入っているんですよ~!」と、コンポストの中を見てびっくり。大量の生ごみはどこへやら…。コンポストだけに臭いも覚悟していたのですが、悪臭もしませんでした。
イベント用に作成した資料(木製コンポストに入れた生ごみの一例)
木製コンポストの製作開始は平成26年までさかのぼります。
谷村さんの実家は都農町でも有名な製材所。木材加工の副産物として出る木の皮(バーク)の処分に頭を悩ませていたお父様から、「何か活用方法を考えてくれ」と相談を受けます。

ちょうどその頃、谷村さんはお母様の影響でダンボールコンポストをはじめていました。
生ごみの分解を促進するためにコンポストに入れる基材にバークが活用でき、「これは良い!」と使いはじめましたが、ダンボールは強度が弱いため、しばらくすると崩壊して使えなくなってしまったそう。
「もっと強度があって扱いやすかったら、いろんな人が使ってくれて、バークの活用や環境保全にもつながるのではないか」と考えました。そして、製材所という強みを生かし、木製コンポストの開発に乗り出したのです。
そこからはじまった実験の日々。木製コンポスト完成までに費やした金額はおよそ家一軒分だとか…。周りからからかわれることもあれば、夜な夜な作成した図面に「これはできんわ」と工員さんから返されることもあったといいます。
そんな苦しい状況でも諦めずに続けてこられた原動力を問うと、
「私ね、我が子が本当に大好きで大好きで。でもその子どもたちもいつか巣立っていくでしょ?もし私が何かをつくりだしてそれを世界中に届けられるようになったら、彼らが苦しいときに、『あぁ~、お母さんあんなことしてたよな~』って思い出してくれたらなぁと思って…」。
子どもたちには何もできなかったけれど、自分の後ろ姿だけでも子どもたちの記憶に残してあげたかったと振り返ります。
開発から6年半。想いのつまった木製コンポスト「樹erie box」は商品化に成功し、特許権も取得しました。
樹erie boxが結んでくれた、たくさんのご縁
県内各地のイベントに呼ばれ、コンポストづくりのワークショップを行なっている谷村さん。
コンポストに使用する組み木は1本ずつ、職人さんが切り出しを行なっているため、数ミリ単位で調整が必要なことも。
参加者がスムーズに作業できるよう、ワークショップ前には谷村さんが一度コンポストを組み上げ、それをバラして持っていき、参加者に再度組み立ててもらうという心遣い…。参加者に作ってもらうので組み立ての手間がはぶけると思っていたら実は逆でした。

「なんでこんなバカなことをするかというと、みなさんに使ってほしいからなんです。『つくる』という行為からとりかかっているから、『この箱だめだった~』って簡単にはケチつけられないでしょ(笑)」。
ワークショップで目を輝かせながら作業する親子の姿や、コンポスト利用者からのお礼のメッセージなど、「樹erie boxがたくさんのご縁を結んでくれているなぁ」と感謝の日々。

SDGsの認知向上も追い風となり、樹erie boxは生産が追いつかないほどの人気商品となりました。
「樹erie boxを広める活動のお手伝いがしたい」というコンポスト愛用者の声から、「樹えりすと」というアドバイザー資格制度もつくり、活動の輪がどんどん広がっています。
地球にも優しく、だれでもはじめられる小さな循環型生活。
コンポストでできた堆肥は家庭菜園の野菜づくりに活用されています。
「肥料や農薬は使いません。コンポストでできた堆肥だけです」。元気いっぱいに実ったトマト。実は植えたものではなく、堆肥の中に眠っていた種が勝手に生えてきたといいます。

「主婦業も、仕事もやることがたくさん。ハラハラドキドキの毎日だけど、楽しくてね~!」。笑顔で話す姿が印象的でした。谷村さんもコンポスト内の微生物も休む暇はなさそうです。
【とぅりーあらいぶ合同会社 Tree alive LLC.】
業務内容:木製コンポスト制作・販売 木工用品の製作・販売 乾燥薪の販売
住  所:〒889-1201 宮崎県児湯郡都農町大字川北18912-5
TEL:0983-25-2602
FAX : 0983-32-7786
代  表:谷村 江利子
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