#仕事
代々受け継いできた都農町で唯一の本屋
2021.12.28
都農町で唯一の本屋 日髙百貨堂さん。店舗のある場所は都農町役場や道の駅つのから歩いてすぐのところ。本だけでなく文房具や教材なども取り扱っており、都農町出身者からは子どものころによく利用していたという話を聞きます。
お店にうかがうと、日髙さんご夫妻、そして看板犬のレオくんが出迎えてくれました。昭和から三代続いているという日髙百貨堂さん。時代とともに移り変わる本屋事情も気になります。お二人に、本屋の仕事についてうかがってきました。
都農町で唯一の本屋
読書人口の減少、オンラインショッピングの広がりにより、書店業界は全体的に苦しい現状にあります。店舗の規模にかかわらず、売り上げは目に見えて落ち込んでいるのです。
よく聞かれる、本屋の売り上げの要だった雑誌が売れなくなったというのは、日髙さんたちも経営を続けながら肌で感じてきました。

たとえば週刊の少年マンガ誌。以前は発売日になるといっせいに子どもたちが買いに来て、お店に行列ができるほどだったそう。そんな少年マンガ誌も、当時1冊180円ほどだった価格が2倍近く値上がりしていて、全国的な出版不況を物語っています。

そんな時代の流れもあり、日髙さんたちは本屋を経営する難しさを年々感じているそうです。店内には文庫本・雑誌・コミックスなどが並ぶ棚と、さまざまな種類の文房具が並ぶ棚、年末の取材だったのでスケジュール帳や暦なども並んでいました。この品揃えも、出版社や取次の関係で、入荷する数自体が年々減ってきているのだとか。

それでも今回の取材中、子どもたちがコミックの単行本を買うために来店して、嬉しそうに商品を手に取っていました。そのような光景を目にすると、本屋さんが身近にあることの意義をあらためて考えさせられます。
「有名な言葉で『知恵が出ないなら汗を流せ』というけど私はそういうタイプ。とにかく汗を流して、重いものを持って……本屋は力仕事が多い!」と笑いながら話す武文さん。本屋という大変な仕事を長年続けてきた貫禄がそこにはありました。
本屋さんのはじまりは乾物屋さん
創業されてすぐのころの日髙百貨堂さんの写真を見せてもらいました。
洋風の素敵な建造物ですが、昭和7年に建てられたこともあり老朽化が進んでいたため、取り壊すことを決意。15年ほど前に現在の店舗にリニューアルされました。

日髙さんの祖父・武雄さんは、倹約家でやり手の商売人だったようです。以前乾物屋さんを営んでいたときに、商品が腐ってしまい廃棄することになるのをどうにかしようと、本や文具を売ることを思いついたのだとか。
当時はまだ本や文房具を売っているお店が珍しく、時代を先取りしたといっても過言ではありません。武文さんがほかの書店のオーナーと会った際に、「お宅のおじいさん、武雄さんに、本屋とか文具店をしなさいと教えてもらったんだよ」といわれて驚いたというエピソードも聞かせてもらいました。

そんな代々続く日髙百貨堂の家に生まれた武文さんは、大学生になると上京し、学生生活やアルバイトなど忙しく暮らしていました。
ところがある日、故郷の弟さんが急死したとの報せが。それを機に武文さんは後継ぎになることを決め、帰郷したのだそうです。
おかえり、といえる仕事で良かった
祖父の代から続く日髙百貨堂の歴史を、ずっと守ってきたご夫妻。
そんなお二人に、この仕事をしていて良かったことは? と聞くと「子どもが学校から『ただいま』と帰ってきたときに『おかえり』とお店で迎えることができた。自営業だからこそだったと思う。たくさんは儲からない仕事だけどね、子どもたちとこんな会話ができたということが、本当によかったんだよ」という、温かな答えが返ってきました。

当時は、下校しても保護者が在宅していないため自宅のカギを持ち歩く「カギっ子」が社会問題になっていた時期でもありました。日髙さんのお子さんたちは、学校から帰るとそのままお店に入ってきて、カウンターの近くに座っていたんだそう。家族間コミュニケーションの減少が叫ばれていた時代に、そのような親子の日常を過ごせたことは、お二人にとって大切な思い出になっているようです。

取材の最後に、「もうお店はいつ辞めてもいいと思っているんだけど、一日働いたあとにお風呂に入って、コタツでお酒を飲むのが唯一の楽しみ。テレビを見ながら、同時にお店のことも考えながら。仕事の反省をしたりね」とおっしゃっていた日髙さん。
オンラインショッピングの台頭や書籍売り上げ低迷により、書店業界は厳しい状況にあります。とくに、町の小さな本屋さんとして経営を続けていく難しさを今回考えさせられました。知の拠点である本屋という存在が、どうか都農町にずっとあり続けて欲しいと、願わずにいられません。
【日髙百貨堂】
〒889-1201 宮崎県児湯郡都農町大字川北4949
TEL : 0983-25-0014(FAX:0983-25-0011)
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