#暮らしのこと#耕す#食べる
「くだもののまち都農町」100年以上続く文化を未来へつなげる試み
2025.01.15
「山と滝とくだもののまち」都農町は豊かな自然の広がるまち。その恩恵を受け、一次産業を中心に発展してきました。環境の良さはそのまま農作物や畜産、魚介のおいしさにもつながっていく。世代を超えて守り通してきたものがあるからこそ、現代においても当たり前のように存在するものたち。何かが続いていく背景には必ず理由があるのです。
果樹栽培の先駆者、永友百二さんの存在
農業が盛んな都農町。ナシやブドウなどくだものの産地として知られています。根強い人気のシャインマスカット、世界的に評価される都農ワインといった都農町発の特産物は、贈り物やお土産として日本全国へ届けられています。

都農町といえばくだものというイメージが定着していますが、実は果樹栽培が本格的に広まったのは100年ほど前と、歴史が浅いのです。

その立役者となったのは1898年生まれの永友百二さん。自身の暮らす新別府地区が水田に適さない土地だったことから、百二さんは果樹栽培に挑戦します。雨の多い都農町で果樹を育てることはできるのか。周囲の反発を受けながらも規模を拡大し、地域に浸透させ、都農町はナシの町として知られるほどになりました。
収益安定のため、戦後間もない1947年にはナシにかわる果樹品目としてブドウの栽培に着手。またも困難を極める挑戦でしたが、研究を重ねることで高い育苗技術を確立。百二さんに影響されブドウ栽培をはじめる農家も増えていきました。

農家が団結することでブドウ栽培は勢いを増し、都農町を代表する特産物となりました。その後、栽培に尽力した第一世代の果樹園やノウハウを、家族や後継者が受け継いできたことにより、果樹栽培は都農町の主産業として発展していくのでした。
少子高齢化による担い手不足。新規就農への提言
そうした流れのなか、市場へ出荷する以外の販路として直売所や観光農園をはじめる果樹農家も現れました。それがまた「都農町=くだもののまち」の印象を強くしていきます。

最盛期を迎えていたころ、ある観光農園の駐車場には100台ほどの車がとまり、会計レジには長蛇の列ができていたといいます。現在でも8月〜9月の夏季は繁忙期でナシ狩りやブドウ狩りに多くの家族連れが訪れます。

しかし、近年ある問題が浮上してきました。それは高齢化による農家の廃業、少子化による担い手不足。そして、気候変動、天候に左右される収穫量。興隆を誇った果樹栽培にも陰りが見えています。

「農園を譲りたいけれど後継ぎがいないという人がたくさんいます。反対に、未経験から新規就農をしたい人もいる。高齢で廃業予定の農家から畑や作物、資材を受け継ぐ就農が今後増えてほしいと考えています」
そう話すのは約50年続くまるみ観光果樹園の3代目 河野通廣(みちひろ)さん。自身も農園を継いだ経験から「ベテラン農家は何十年と積み重ねてきた技術を持っています。そのノウハウを、すでに何十年と耕された畑で学べるのは意義がある」と強調します。

通廣さんも70代となり体力の限界を感じはじめ、今後の農園のあり方を模索しています。
「就農意欲のある人にとってブドウ栽培は魅力があります。シャインマスカットのように気象や病気に強い品種に特化すると収益も安定するのではないでしょうか。都農には経験者がたくさんいますから、今後手を挙げる人が増えることを期待しています」(通廣さん)
「都農を守ろうよ」未来へバトンを渡す努力
同じように、少子高齢化による担い手不足を課題と捉えている果樹農家がいます。

太陽農園の河野博美さんは廃業により耕作放棄地となった土地を心配しています。
「誰も土地の手入れをする人がいなければ、資材は残されたままになり、雑草も伸びていくし、ゴミが捨てられることもあります」(博美さん)

博美さんは周辺農家と協力して畑の整理のほか、地区周辺を守る防風林の手入れをしています。

博美さんには息子の猛さんがいることもあり、今のところ後継ぎに悩むことはありません。しかし、農業を取り巻く現状は厳しいと話します。
「天候不良や資材の高騰に悩まされることが増えました。今年はブドウのおかげで助かりましたがナシだけを栽培していたらと思うとゾッとします。業界的に働ける世代が少なくなっていますから、昭和・平成の勢いはなくなっていますね」(博美さん)

ただ、その現状を嘆いているだけではありません。
「『都農を守ろうよ』そんなことを考えはじめました。都農で果樹栽培がはじまってから、世代を越えて盛り上げてきたわけです。自分もそんななかで育ちました。息子も一人前になって、自分も家を守る役目を終えてきて余裕が出てきたこともあり、周りに加勢してやらなきゃなと思っています」(博美さん)

永友百二さんがはじめ、有志たちによって広がった果樹栽培は、長い時間をかけ都農町の産業となり、土地の景観を形づくり、文化として現代に残ってきました。それらを守り、未来へつなぐ努力が現役世代によって続けられています。

現在は農家をはじめ、行政や民間事業者など垣根を越えた連携により、農業文化を残していく取り組みが行われています。

そのバトンを受けとるのは「あなた」かもしれません。
【まるみ観光果樹園】
〒889-1201 
宮崎県児湯郡都農町川北1381(新今別府)
TEL/FAX:0983-25-0812
Instagram:@marumikankoukajuen


【太陽農園】
〒889-1201 
宮崎県児湯郡都農町川北1379-2(新今別府)
TEL/FAX:0983-25-4172
Instagram:@taiyofarm.fruit
TOP TOP