#食べる
甘い蜜のように、アイデア溢れる焼きいも屋
2023.01.30
「楽しいですよね。一つずつやりたいことが叶っていくのは」。ふと良いアイデアが湧いたとき、ワクワクしているうちにそれを実現させてしまおうと焦りがちで、いつの間にか本来の楽しさを忘れてしまう。しかし大切なのはコツコツ地道にやれることを積み重ねていくこと、そしてタイミングを逃さないこと。そう、今回登場する農家さんのように。
世はサツマイモブーム
昨今のサツマイモ人気や健康志向もあり、都市部をはじめ専門店が増えています。それら専門店ではオリジナルのスイーツから大学芋や焼きいもまで幅広い商品が販売されている。東京のような大都市では「やきいもフェス」が開催されるほど。

なかでも焼きいもといえば、馴染み深い人も多いのではないでしょうか。「い〜しや〜きいも〜、おいも!」と移動販売の軽トラックが近所を巡る。寒い時期になると人が集まって、ホクホクとした焼きいもを頬張っている姿は、情緒ある日本の原風景にもなっています。焼きいもというと、木枯らしのふく寒い季節を連想してしまうほど私たちには身近な存在。

都農町にもそんな焼きいものお店がありました。
都農神社の東側駐車場にある建物。以前つのマガジンでもお届けしたことのあるお店「Colors farm」のお隣。「焼いも」の赤提灯、そして店名が力強く書かれた木製看板が目を引く。その名も「焼きいもひろば」。

ここを切り盛りしているのはMTS農園の吉井光孝さん。光孝さんは2015年よりサラリーマンをしながら農業をはじめました。その後脱サラを経て専業農家へ。サツマイモの一種である安納芋を中心に栽培を行い、育てられた芋は主に道の駅つのへ出荷されています。
焼きいもひろばでは、焼きいもや生芋のほか、光孝さんの安納芋でつくられた商品が販売されています。これまで芋焼酎「尾鈴芋凰(おすずいもおう)」、安納芋のクラフトビール「シナモンガール」といったユニークな商品がつくられてきました。芋焼酎といえば黄金千貫という品種が使われることが多いなか、安納芋が原料となるなんて。光孝さんに話をうかがっていると、芋を使って何かできないかとずっと思考を巡らせているそうです。
「考えることを止めないようにしています」。ユニークさの源泉とは
「芋にこだわったおもしろいことをしていきたいなって常に考えています。以前イベント出展をしたときには芋天や芋の回転焼きを出してみたり。芋のバターや犬用の干し芋とか、これまで試したものはたくさん。これからは芋を使ったお菓子をつくってみたいんですよね」

光孝さんの口から溢れる構想とアイデア。専業農家になり、芋の生産から販売先の確保までほぼすべてを自分で行っています。これまで困難なことも多々ありましたが、その要所要所で次の一手を確実に打ちにいく。

やりたいことに溢れ、かつ生業(なりわい)である農業を安定させるために行動する。その力の湧き出る先はどこなのか。いろんな話を聞くたびに出てくるのが「考えることを止めないようにしています」という言葉。
「おそらく、その習慣はサラリーマンのときからあると思います。僕、トラックを販売する会社に20年ほどいたのですが、一般の乗用車販売と違って相手をするのは運送会社や建設・土木関係の社長さんばかり。トップの方々にお会いすると自分が試されていることも多く。そんななかでいかに気持ちよく買っていただけるか考えを巡らせていました」

長年いろんなタイプの社長さんと顔を合わせた経験は刺激になったといいます。自分とは異なる発想を持つ社長さんたちに負けていられないと思う日々。それが今に生きていると。

「農業を続けていくためにも、功を焦らず地道に、地道にね。それが一番早いですから」
顔の見える関係性でお芋を届けていく
規模が大きくなり、それまでの作業場では手狭になったことや、以前から構想のあった焼きいもをするため作業場兼店舗として開店した「焼きいもひろば」。

ここで販売する焼きいもは遠赤外線効果のある焼き芋機で焼かれています。全体がムラなく焼かれ、割ったときに溢れ出る湯気や芋の香りに食欲がそそられ、頬張ったときに口に広がる風味は格別です。今季は安納芋、シルクスイート、紅はるかの3種を焼きいも用として栽培。3種のそれぞれ異なった風味を食べ比べてみるのもよし。

「よく『おいしい食べ方はなんですか?』と聞かれるけれど、焼きいもが一番ですよ。これに勝るものはない! 表面をまんべんなく焼いてあげると蜜が出て本当においしい。それをね、冷蔵庫に入れて1週間とか熟成させてあげると蜜がジワっと染みるように出てさらに甘くなるんです。柔らかくなった食感もたまりませんよ」
そんな光孝さんの焼きいもを求め、うっすらと寒くなった夕方、お客さんが次に、また次にと買いにやってくる。

お店では熟成させた焼きいもを真空パックし「冷やし焼きいも」としても販売しています。温めなくてもデザート感覚で食べることができ、パックを開けたときの焼酎のような甘い香りに酔いしれてしまいそう。

「自分でつくったものでお客様に喜んでもらえるって嬉しいですよね。もちろん、ものが売れてお金に変わる瞬間も嬉しいものですが、目の前で直接『おいしい』なんて感想をいっていただけるのが一番響きますよ。それが活力になる。生芋も焼きいももリピーターがついてきていますから、その関係性を大切にしていきたいですね」
【焼きいもひろば(MTS農園)】
宮崎県児湯郡都農町川北13312
月〜金:16:00〜19:00/土:13:00〜19:00(日曜定休)
TEL:090-8769-1356
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