#暮らしのこと
信頼を築くアナログなコミュニケーション 三鍋種苗店
2022.05.19
コロナ禍で閑散としたまちの光景と閉塞感のなかで生きてきた2年間。
インターネットやSNSが浸透し、触れ合うことはできなくとも表情を見て、声を聞いてコミュニケーションが取れ、欲しいものはなんでも手に入る。私たちの生活はオンライン環境に救われたといっても過言ではありません。それでは「リアル」の役割とはいったいなんなのでしょう? その答えを追及するように、対面での接客にこだわるお店が都農町にはあります。
景観も店内も賑わいを見せる種苗店
「この花ってどれくらいで咲くと?」「この前買った苗が育ってきたよ」「今日もありがとうね」。賑やかな会話が飛び交うまち一角にある三鍋(みなべ)種苗店。色鮮やかな花々と植物に囲まれた店内には、朝からたくさんのお客さんが訪れます。農家はもちろん、園芸を楽しむ方々など、老若男女に愛されるお店であることがうかがえます。

「今日はお客さんは少ないほうですよ。コロナ禍であってもこの業種は影響が少ないんです。むしろ、今まで旅行や飲食にお金を使っていた方々の趣味が、観葉植物や家庭菜園にシフトしてきてお客さんも増えたように感じますね」。

接客を終え、取材に応えてくれたのは、同店を営む三代目店主の河村竜次さん。
「この業界は店主が高齢で継ぎ手が見つからず引退される方が多いんです。僕は運送会社で働いていたときに野菜や花を運ぶことが多くて、農家さんと話す機会もあったのですが、
そういった声を聞くことがあって、自分に何かできることはないだろうかとずっと考えていたんです」。

河村さんは山口県宇部市のご出身。大学進学を機に宮崎県へ移住されました。大学卒業後は運送会社に勤務。20代後半に奥さんの実家が営んでいた同店を受け継ぎ、今年で13年目になります。
地道な努力で築いてきた信頼関係
「先代はとにかく偉大な人で、誰からも慕われる人。だからこそ自分がお店を引き継いだときはお客さんが離れてしまうんじゃないかと毎日不安でした」。

お店を引き継いだ当時を振り返る河村さん。創業から80年以上お店を切り盛りしてきた先代の存在は、憧れであると同時に大きなプレッシャーだったといいます。農業の知識もなければ接客の経験もゼロ。すべてがイチからのスタートに苦悩する日々。それでもできる努力を続けてきました。その経験が今の営業スタイルにも表れています。

「苗の入荷には一番気をつかっていますね。普通に配達されると店に届くのが9時〜10時くらい。でも農家さんって朝から動いているので、その時間からの販売では遅いんです。なので毎朝配送センターに取りに行くようにして、7時の開店に間に合うようにしています」。

河村さんがこだわったのは「求められるニーズに対して的確に応えること」。
苗の入荷もそうしたこだわりの一つです。また、注文が重なる繫忙期になると宮崎市にある市場までの片道1時間を何度も往復することも。こうした努力がお客さんとの信頼関係を築くきっかけになっているといいます。

「ホームセンターと比べたら、品揃えは敵わないかもしれません。だけど個人店には個人店だからこその小回りの良さや、地域密着型の独自性があると思います。とくに花や苗は生き物を売る仕事。信用や信頼関係をいかにして築くかが本質だと思っています。今はおかげさまでうちに来てくれるお客さんのリピートは100%に近い。信頼していただいている証かもしれません」。
リアルだからこそ縮めていける距離感
地域から頼られる存在として地道な努力を続ける河村さん。
お客さんとの信頼を築いていくなかで、接客にもこだわりを持つようになったといいます。

「接客ではお客さんとの距離感を大切にするように心がけています。この仕事は商品を売るのではなく、自分という人間を売る仕事だと思うんです。どれだけ良い品揃えがあっても、売ってくれる人が嫌な感じだと買いたいとは思わなくなりますよね。人柄は信頼を築く入口としても重要なんです」。
近年ではネットショップへ進出するお店も多いなか、河村さんは実店舗での販売にこだわり、サービスの質を重視しています。そうしたこだわりの裏には伝えていきたい思いがありました。

「オンライン上のコミュニケーションにもたくさん良いところはありますが、僕は接客のなかで、お客さんの悩みを解決していくプロセスが純粋に楽しいんです。ベタかもしれませんが、お客さんの『ありがとう』を聞けるのがモチベーションになるんです。だけど、若い世代の人たちに僕のやり方が受け止めてもらえるかといわれたらわかりません。ただ、こうしたアナログなやり方にもたくさん良いことがある。自分はそれを一つずつ実証していけたらと思います」。
【三鍋種苗店】
〒889-1201 宮崎県児湯郡都農町川北4775
TEL:0983-25-0227
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