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地域を混ぜる食品工場として。循環型・自己完結型農業の描く未来
2024.09.30
私たちが口にする食べ物は、必ず誰かの手によって育てられたもの。春夏秋冬、暑い日も寒い日も変わることなく畑仕事や家畜の世話に汗を流す。時には自然災害や異常気象に大きく影響される。それでも、一次・二次・三次とそれぞれの産業に関わる人々の努力によって、地域を越えて、バトンをパスするように私たちの食卓へと運ばれていく。
安心安全の地元の味を全国へお届け
地域で大切に育てられた野菜や畜産物は、今日もあなたのまちへ届けられている。

都農町にある農業生産法人サンアグリフーズ株式会社は食品加工・販売を行う会社として漬物やカット野菜、惣菜などを製造しています。黒毛和牛の繁殖や肥育を行っている農業生産法人有限会社アグテック(宮崎県新富町)を母体とし、2011年11月に設立されました。

アグテックが掲げている「循環型および自己完結型農業の確立」の理念を継承し、野菜生産から加工、販売に至るまで自社一貫体制を整備。露地栽培に重要な土づくりにはアグテックの農場から出た牛糞を完熟堆肥化して活用するなど、排出されるものも含めグループ全体で循環される仕組みを構築しています。
(写真提供:サンアグリフーズ株式会社)
また、アグテック、サンアグリフーズの両社とも生産から販売までの履歴を明確化。食品工場は安心安全を徹底した運営を行い、その製造ラインには厳しい管理体制を敷いています。その証左として2020年には食品安全マネジメント規格であるJFS-B規格を取得。一般消費者から取引業者に至るまで、厚い信頼の材料がそろっています。

そうしたこともあり、商品は一般用から業務用まで全国に広く流通しています。大手コンビニや外食チェーン、学校給食でも使われるなど、地域で生産された野菜が遠い土地に暮らす人々の食を彩っています。
逆境は新たなチャンス。「経営は少しでも前進を」
「2010年に発生した口蹄疫でアグテックは689頭の牛が殺処分の対象となりました。犠牲となった牛を弔うため牛魂祭を毎年行っています。牛なしでは経営が成り立たないなかで、元から畑を保有し野菜や飼料用作物を栽培していたことは救いとなりました。それがサンアグリフーズ設立のきっかけにあります」
そう話すのは代表の礒部良太さん。良太さんは創業者である父・辰則さんから両社の代表を継いだ2代目。口蹄疫があったとき良太さんは県外の大学に通っており、直接その被害を目の当たりにしたわけではありません。しかし、「父や会社の先輩たちの牛に対する愛情は知っていましたから大変だったに違いない」と当時を振り返ります。

口蹄疫後、自社・契約農家双方の農地により露地野菜の栽培を広げ、生産物を付加価値の高い商品として販売し、地域に還元していくことを目的にサンアグリフーズは誕生。地元の農家、企業と協力し、高菜をはじめとする野菜たちを使った魅力ある商品を生み出し続けています。
(64基の大型地下タンクを持つ漬け込み棟。高菜や大根の塩漬け・発酵が行われる)
コロナ禍による売上の落ち込み、ロシア・ウクライナ戦争による資材や燃料費高騰など、外部環境の影響を受けることもありました。しかし、以前より力を入れていたオンラインストアが活躍。そして、2022年3月には新設した食肉加工場が稼働を開始。どんな状況にあっても前進していく社の姿勢が見えます。
(良太さんおすすめの「ご褒美カレー」。アグテックで肥育の黒毛和牛がゴロっと入っている)
「父からは『会社というものは進まないと衰退の一途をたどる。ちょっとでもいいから進んだほうがいい』とアドバイスをいただいています。代表に就いてから間もなく、未熟な部分もあり、みんなに支えられている日々ですが新しいことにもどんどん挑戦していきたいですね」
地域を混ぜる拠点として、つなぐ架け橋として
都農町と新富町の2つの自治体で会社を経営する良太さん。車で30分ほど離れた場所にある2社の経営は、大変でありながらも独自の強みがあるともいいます。

「この2カ所でやっていて、お互いの地域のものを循環させているような地域密着型の企業はなかなかないように思います。そういう意味で都農と新富の架け橋になりたいですね。同時にご縁をいただいた都農町にも恩返しをしたい。地方の中小企業は、地元の企業やそこに暮らす人々と協力することで存続できている。契約農家さんたちのおかげで私たちの会社も成り立っています。横のつながりを深めていって都農を盛り上げることをしていきたい」
漬物商品のイメージが強いため、サンアグリフーズの工場は漬物専用かと思われがちですが、良太さんが「うちの強みは一般用から業務用まで広く扱う食品工場であること」と語るように決してそんなことはありません。あらゆる加工品づくりに対応し、OEM(製造委託)も請け負っています。これまで、オリジナル商品のほかにも県内企業とコラボした商品が誕生しています。
(ヤマエ食品工業(株)とコラボした「こんな旨い万能タレ あっ高菜」。加工品づくりで余った高菜を活用するなどフードロスをなくす試みの一例|写真提供:サンアグリフーズ株式会社)
「『こんな商品がつくりたいけれど、どうだろう』という声に対して『それ、うちつくりますよ!』と夢を実現できるようにしたいんです」

昨今、異常気象に加え高齢化や担い手不足といった農業や食を巡る環境は厳しさを増しています。しかし、会社でも若手である良太さんは、その感性を生かして課題に果敢に挑んでいます。サンアグリフーズの今後の展開に目が離せません。
【農業生産法人サンアグリフーズ株式会社】
〒889-1201
宮崎県児湯郡都農町大字川北1432番地7
TEL:0983-21-2139/FAX:0983-21-2138
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